大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所一関支部 昭和40年(む)7号 判決 1965年3月15日

被疑者 那須川和郎

決  定

(申立人氏名略)

被疑者那須川和郎について盛岡地方検察庁一関支部検察事務官高橋操がなした接見指定拒否処分について、申立人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、同検察事務官に意見を求め、申立人から事情を聴取して事実を取調べたうえ、次のとおり決定する。

主文

被疑者那須川和郎について、盛岡地方検察庁一関支部検察事務官高橋操が昭和四〇年三月一五日なした、申立人の接見指定の申立を却下した処分を取消す。

盛岡地方検察庁一関支部検察事務官高橋操は、申立人に対し、申立人が昭和四〇年三月一五日午後五時二〇分から同日午後六時二〇分まで被疑者那須川和郎と接見することを許さなければならない。

理由

申立人の本件申立の理由は、別紙のとおりである。

当裁判所の事実調の結果によれば、盛岡地方検察庁一関支部検察事務官高橋操は、本日申立人がなした被疑者那須川和郎との接見指定の申立に対し、主任検察官及びそれを代理すべき検察官の不在なることを理由に、その指定を拒否したことは明らかである。

弁護人が被疑者と接見しうべきことは憲法及び刑訴法上保障された権利であつて、刑訴法第三九条第三項に定める事由のある場合に限り捜査官憲は弁護人の接見の日時、場所及び時間を指定することができるに止まるのであつて、かかる事由の存しない以上は、弁護人の希望するとおり被疑者との接見を許さなければならないのである。

しかして、被疑者那須川和郎について、刑訴法第三九条第三項に定める事由の存する旨の意見が検察官又は検察事務官からなされない以上、かかる事由は存しないものと認めるほかない。

以上のとおりであるから、申立人がした接見指定の申立を拒否した盛岡地方検察庁一関支部検察事務官高橋操の処分は、不適法であるというほかない。よつて、当裁判所は、刑訴法第四三〇条にしたがい、この処分を取消し、弁護人の申出のとおり一時間の接見を許すべきことを命じることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 金沢英一)

別紙

申立の理由

一、被疑者那須川和郎は非現住建造物放火未遂被疑事件により勾留処分を受けているものであり、弁護人小野寺照東は右被疑者の弁護人である。

二、右弁護人は昭和四〇年三月一五日右被疑者と接見すべく盛岡地方検察庁一関支部検察事務官高橋操に対し、右被疑者と右日時に接見を希望する旨、従つてその旨の接見指定をなされたき旨の申立をした。ところが、同検察事務官は弁護人の右申立を受け容れず、これを拒否した。

三、右拒否処分の違法

(1) 憲法第三四条、刑訴法第三九条により弁護人は被疑者と立会人なくして接見することができる(秘密交通権)。これは憲法及び刑訴法が弁護人に与えた刑事手続上の重要な権利である。しかも、この権利は弁護活動を必要とする時は何時でも行使することのできる一般的に許容された権限であり、捜査官憲といえども禁止することができないものである。

唯「捜査のため必要があるとき」に限り、必要最少限において「その日時、場所及び時間を指定することができる」とされているに過ぎない。即ち、捜査の必要があるからといつて、之を制限なく行使することは許されない。接見の指定をすることによつて、被疑者の防禦権を不当に制限するような結果に陥らぬことが肝要である。さもなければ被疑者の弁護人依頼権に関する憲法上の保障のごときは全く有名無実となるにいたるであろう。

(2) しかるに検察事務官が弁護人の前記接見申立を拒否するのは、右の法の趣旨を曲解し、あたかも弁護人の接見についても一般人の接見と同じく一般的に禁止し得るもの(刑訴法第八一条参照)とする、明らかに違法の処分である。

四、よつて刑訴法第四三〇条にもとづき、本申立に及ぶ。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例